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大阪高等裁判所 昭和55年(行コ)44号 判決

兵庫県三原郡南淡町阿万下町四三八番地の二

控訴人

坂部正

兵庫県洲本市山手一丁目一番一五号

被控訴人

洲本税務署長

吉田稔

右指定代理人

澤田英雄

井上勝比佐

志水哲雄

岡本雅男

熊本義城

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が控訴人の昭和四九年分所得税について昭和五〇年一一月一五日付でなした更正処分のうち税額金八万六〇〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定処分はこれを取り消す。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決。

2  被控訴人

主文と同旨の判決。

二  当事者の主張及び証拠関係

次のとおり付加、補正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二枚目裏九行目の「所得税更正処分」の次に「(以下、本件更正処分という。)」を、「重加算税賦課決定処分」の次に「(以下、本件賦課決定処分という。)」を、同三枚目表一行目の「であり、」の次に「本件」を各付加し、同二行目の「重加算税」を「本件」と改める。

2  同三枚目表八行目の「所得税」及び「重加算税額」をそれぞれ「本件」と、同四枚目表一一行目の括孤内を「旧姓夏川、以下、坪内という。」と各改め、同末行目の「隠ぺいし」の次に「、その仮装し、又は隠ぺいしたところに基づき確定申告書を提出し」を付加し、同末行目から同裏一行目の「重加算税の」を「本件」と改める。

3  同四枚目裏三行目の「うち、」の次に「短期譲渡所得金額八六万六四〇〇円の部分、すなわち、」を、同四行目の「これを」の次に「主張の日に」を各付加し、同七行目の「原告は」から同一〇行目末尾までを「控訴人は、昭和四三年一一月二〇日訴外榎本亀一(以下、榎本という。)からA山林を代金五〇〇万円で取得して同年一二月二〇日代金一〇〇〇万円でこれを坪内に売り渡し、同人が更に昭和四九年三月一九日これを帝都観光に売り渡したものであるから、被控訴人主張のA山林に係る譲渡所得は坪内に帰属し、控訴人には帰属しない。」と、同一二行目の「一二月」を「一一月」と、同五枚目表一行目の「存する」を「あり、その譲渡代金が長期譲渡所得にあたることは明らかである」と各改め、同五行目の「ため、」の次に「本件」を、「としても、」の次に「故意に」を各付加し、同六行目の「重加算税の」を「本件」と改め、同別紙物件目録二行目及び四行目の「番地」をそれぞれ「番」と訂正する。

理由

一  請求原因一、二の各事実及び被控訴人の主張一の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件更正処分の適否について判断する。

1  本件更正処分のうち、総合課税の不動産所得金額一二万八〇〇〇円の部分及び分離課税の短期譲渡所得金額のうち八六万六四〇〇円の部分(控訴人が昭和四九年三月三一日代金四五七万九〇〇〇円で取得したB山林を同年一一月一一日代金五四四万五四〇〇円で売却したことによる短期譲渡所得金額)については当事者間に争いがない。

2  そこで次に、A山林の譲渡に係る短期譲渡所得金について検討する。

(一)  成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証、第二号証の一ないし六、第三、第四、第六号証、第九、第一〇号証の各一、原審証人坪内茂善の証言によって成立が認められる甲第七号証の一、二、弁論の全趣旨によって成立が認められる乙第五号証、原審証人榎本亀一の証言によって成立が認められる乙第九、第一〇号証の各二、官署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨によって成立が認められる乙第一一号証、官署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については前記榎本の証言によって成立が認められる乙第一二号証の一、二を総合すると、

(1) 控訴人は、昭和四四年七月二日A山林を榎本から代金四六二万九〇〇〇円で買い受け、同年一一月一四日までに分割して右代金を榎本に完済し、同年一二月二五日所有権移転登記を経由したこと。

(2) 控訴人は、昭和四八年六月四日帝都観光に対し、A山林を代金七四六五万六〇〇〇円、代金完済時に所有権が移転するとの約旨で売り渡し、帝都観光は、昭和四九年一月三一日までに分割して右代金を控訴人に完済し、同年三月一九日所有権移転登記を経由したこと。

(3) 控訴人は、右(2)の売買の仲介に当たった不動産仲介業者に対し、仲介手数料として昭和四八年一一月六日に一〇〇万円、昭和四九年一月三一日に一二九万九六〇〇円をそれぞれ支払ったこと。

以上の事実が認められる。

(二)  ところで、控訴人は、昭和四三年一一月二〇日榎本からA山林を取得して同年一二月二〇日これを坪内に売り渡し、同人が更に昭和四九年三月一九日これを帝都観光に売り渡したものであるから、被控訴人主張のA山林に係る譲渡所得は坪内に帰属し、控訴人には帰属しない旨主張し、甲第二ないし第五号証並びに原審における証人榎本亀一、同坪内茂善の各証言及び控訴人本人尋問の結果中には、右主張に沿う記載及び供述部分がある。

しかしながら、前記(一)掲記の各証拠と比照するとともに、

(1) 成立に争いのない乙第七号証及び原審証人榎本亀一の証言によると、榎本は、控訴人に対し、A山林を売却する以前の昭和四三年一一月に兵庫県三原郡南淡町阿万東町字畠ケ谷七四三番の山林を売り渡していることが認められ、右事実に照らせば、甲第二号証(仮証)は、A山林ではなく、右七四三番の山林の売買代金の領収証である疑いが極めて濃いこと。

(2) 控訴人の主張を前提にすると、控訴人が坪内にA山林を売り渡した後にその山林について控訴人名義の所有権移転登記がなされたことになり、原審証人坪内茂善はその理由について、右山林には境界問題があって登記手続が延引した旨供述しているが、それだけでは到底首肯するに足りないし、また原審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は、昭和四三年分の所得税の確定申告にあたり、A山林の譲渡所得についてはなんら申告していないことが認められること。

(3) 前掲の甲第一号証及び乙第三号証によれば、A山林は昭和四四年一二月一七日に元番の一一七四番山林一〇万四九四五平方メートルから分筆されていることが認められ、同月二五日に控訴人へ所有権移転登記が経由されたことは前記のとおりであるが、控訴人・坪内間の売買に関するものと思われる甲第四号証(昭和四三年一二月二〇日付契約書)には、分筆後のA山林の表示が正確に記載されているほか、登記簿上既に控訴人の所有名義となっていることを前提とする記載も見られるから、右甲第四号証がその作成日付のころに作成されたものとは到底考えられないこと。

(4) 前掲の甲第一号証及び乙第三号証、成立に争いのない乙第一四、第一五、第二九号証によれば、控訴人は、A山林につき、自己の取引先である淡路信用金庫との間の与信取引契約に基づき昭和四五年一〇月一六日元本極度額を二〇〇万円とする根抵当権を設定し、昭和四七年二月一九日右極度額を一一〇〇万円に増額したうえ、その際同信用金庫から借り受けた九〇〇万円のうち三〇〇万円を自己名義の定期預金にしたほか、右根抵当権に基づいて繰り返し手形貸付を受けたことが認められ、右認定に反する原審証人坪内茂善の証言はにわかに措信し難いこと。

以上の諸事情にかんがみると、控訴人の前記主張に沿う前掲の各証拠は到底措信し難いものといわざるをえない。また、成立に争いのない甲第六号証の一、二によれば、坪内は、A山林を控訴人主張のような経緯で帝都観光に売り渡したものであるとして、その譲渡所得を自己の昭和四九年分の所得金額として確定申告したことが認められるけれども、原審における証人坪内茂善の証言及び控訴人本人尋問の結果からすると、右確定申告は、坪内が控訴人と符節を合すために行ったもので、その後課税庁によって取り消されており、坪内はその税額は納付していないことが認められるから、右甲第六号証の一、二も前記(一)の認定の妨げとなるものではないし、他に右認定を覆して控訴人の前記主張を肯認するに足りるほどの証拠はない。

(三)  そこで、先の認定事実に基づいて考えてみると、控訴人は、昭和四四年七月二日A山林を榎本から買い受けたうえ、昭和四八年六月四日これを帝都観光に売り渡し、昭和四九年一月三一日右代金の完済とともにその所有権を移転したものであるから、帝都観光との右売買による譲渡所得は控訴人に帰属し、かつ、保有期間が五年以内の資産の譲渡による所得として税法上分離短期譲渡所得を構成するものというべく、右譲渡所得の権利確定の時が帝都観光への右所有権移転の日であることは明らかであるから、控訴人の本件係争年分の総収入金額に算入すべきものである。右認定、判断に反する控訴人の主張は採用の限りではない。

そうすると、右譲渡所得の金額は、控訴人か帝都観光にA山林を譲渡したことによる収入金額七四六五万六〇〇〇円から控訴人の榎本に対する前記取得費四六二万九〇〇〇円及び譲渡に要した費用として不動産仲介業者に支払った仲介手数料二二九万九六〇〇円合計六九二万八六〇〇円を差し引いた六七七二万七四〇〇円となる。

3  そして、以上1、2の事実によれば、控訴人の本件係争年分の分離短期譲渡所得の金額は六八五九万三八〇〇円であるから、右の範囲内でなされた本件更正処分は適法というべきである。

三  次に、本件賦課決定処分の適否について検討する。

前記一及び二の2の認定事実からすると、控訴人は、A山林に係る譲渡所得を隠ぺいするため、帝都観光に対する売主が控訴人ではなく坪内であり、また保有期間が五年を超える資産の譲渡であるかのように仮装し、その事実を前提にして自己の確定申告をしたものと認めるのが相当であるから、国税通則法六八条一項に基づき、分離短期譲渡所得のうち、隠ぺいし、又は仮装されていないことの明らかな八六万六四〇〇円を超える金額に対する所得税額を算出の基礎として計算された重加算税が賦課されるものというべく、これと同旨に出た本件賦課決定処分は適法というべきである。

四  以上の次第であってみれば、本件更正処分及び本件賦課決定処分が違法であるとしてその取消を求める控訴人の本訴請求は失当として棄却を免れず、右と同旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条によってこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島崎三郎 裁判官 高田政彦 裁判官 篠原勝美)

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